台湾に残る、あの日の約束

EP7 変わらない景色、変わっていく気持ち

「今日、少しだけ時間ありますか?」


奕翔から届いたメッセージ。

私はすぐに「あるよ」と返した。


数分後、ビデオ通話の着信。

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画面が映ると、奕翔はカメラを自分ではなく街へ向けていた。


「今日は特別な場所を案内します。」


「また秘密の場所?」


「そうです。」


少し得意げな声に、思わず笑う。


石畳の坂道。

古いレンガ造りの建物。

軒先で昼寝をする猫。

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「ここ、祖父たちが授業のあとによく歩いていたそうです。」


「そんな話まで知ってるんだ。」


「祖父が最近、よく話してくれるようになったんです。」


少し嬉しそうな横顔。

「『日本の親友の孫に会えた』って。」


その言葉に、胸がじんわり温かくなる。


「実は……。」

奕翔が立ち止まる。

「祖父が、一冊の日記を見つけたんです。」


「日記?」


「あなたのおじいさんのことが、たくさん書いてありました。」


「えっ……!」

思わず画面に近づく。


「でも。」


奕翔は困ったように笑った。


「祖父が『これは直接渡したい』って。」


「直接……?」


「はい。」


その意味を考えた瞬間、鼓動が速くなる。


「だから。」


奕翔は少し照れながら言った。

「また台湾に来てくれませんか。」


通話が終わったあとも、その言葉が頭から離れない。

“また台湾に来てほしい。”


祖父のため?

それとも……。


考えても答えは出ない。

私は机の上に飾った水彩画を見つめた。


ガジュマルの木の下。


並んで座る、小さな二人の後ろ姿。

気づけば、指先でそっとなぞっていた。




翌朝。


会社で仕事をしていると、スマホが震える。

奕翔から一枚の写真。


そこには、美術室の窓から差し込む朝日が写っていた。

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メッセージは一行だけ。


「今日は、この景色を一緒に見たかったです。」


思わず頬が熱くなる。


私は窓の外の青空を撮って返信した。


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「日本もいい天気だよ。」


すぐに既読がつく。

数秒後。


「同じ空ですね。」


たった六文字。

なのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう。


その夜。


祖父のスケッチブックを開く。

最後の白紙だったページ。


そこに私は、今日届いた朝日の景色を描き始めた。


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描きながら、ふと思う。


“また台湾に行きたい。”


祖父のためだけじゃない。


今はもう――

会いたい人がいるから。


ページの隅に、小さく日付を書き添える。

そして、その下に。


『約束まで、あと少し。』


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